鳥達にとって7月は、子育ての時期ですが、卵から孵ったヒナが全て順調に育つかと言えば、必ずしもそうではないようで、中には、巣から落ちてしまうヒナも数多くあるようです。先日、自動車学校からの帰り、JR山之口駅の待合室で、電車が到着するのを待っていると、小学校4,5年生位の男の子が手に鳥かごをぶら下げて待合室に入ってきました。よく見ると、どうやら籠の中の鳥は、ツバメのヒナでした。その子供に、「そのツバメのヒナはどうしたの?」と聞きましたところ、「近所の家の玄関にツバメが巣を作っていたが、その巣の中から、このヒナが落ちたので、自分が育てている。」という返事でした。
そう答えながら、子供は、えさ箱から小さなミミズをピンセットでつまみ、ツバメのヒナの鼻先で、クルクルまわすと、途端にツバメのヒナは大きな口をあけ、ピイ、ピイと鳴きながら、餌を求めるのです。子供は、ツバメのヒナの鳴き声に応じ、ピンセットで餌をつまんでは、次々と、ヒナの口の中に餌を入れる作業をしていましたが、中には、折角口の中に入れてやっても、口から飛び出し、巣箱の下に落ちましたが、ヒナは全くそれを拾う様子もありません。どうやら、このツバメのヒナは、まだ目が見えないようでした。
このような子供の様子を見ていたところ、ふと私も子供の頃、同じようなことをしていたことを思い出しました。それは、私が小学3年生位のときで、時期的にも同じ7月頃でした。学校から帰り、道路の脇でチョコチョコ歩く、鳥のヒナを見つけたのです。その鳥の名前は、今でははっきり覚えていませんが、とにかく可愛い鳥でした。難なく、そのヒナを捕まえ、自宅に持ち帰って家にあった鳥かごの中に入れたのです。
夕方、兄達がそれぞれ学校から帰ってきたので、自慢げにそのヒナを見せたところ、長兄がいきなり鳥かごをつかみあげ、「お前にはこの鳥は育てられない。ヒナが死んでしまう。」と言い、泣いて反対する私を振り切って、鳥かごの蓋を開け、そのヒナを逃がしてしまったのです。長兄は私より4歳年上ですが、兄弟の中では一番の権限をもっていましたので、逆らうことが出来ず、もちろん、そのことは父母に告げ口するわけにはいかず、「何故、あの時、兄はヒナを逃がしたのか」という疑問が私の心の奥に残ったまま、50数年の時が過ぎ去ってしまったのです。
ところが、先日、偶然見たテレビで、その疑問が解けました。それは、最近、動物園や鳥獣店に、巣から落ちたヒナが持ち込まれることが多くなってきたそうです。その様子がテレビで放映されましたが、その最後の場面で、小鳥のお医者さんが「鳥のヒナは、一旦人間が餌を与えるようになると、その後巣立っても自分で餌を取れない。結果的には自然界では生きてはいけないのです。従って、巣から落ちたヒナには可愛そうですが、拾い上げず、そのままにしておいてください。それがヒナにとっても幸せです。」と解説していました。その言葉を聞き、長兄がヒナを逃がした理由が50数年ぶりにようやく解ったわけです。
私は、ツバメのヒナが心配でしたから、その子供に、「餌をとるようになってくれればいいがね。」と声をかけますと、子供は「大丈夫です。それまで自分が育てます。」と目を輝かせながら、明るく答えてくれました。その子供とは、JR山之口駅で別れましたが、子供の後姿を見送りながら、ツバメのヒナが、どうか自分で餌を取れるようにと神様にお願いしたところでした。






