誰でも子供の時は、将来の仕事について夢を持っていたらしく、職員に聞いてみますと、「幼稚園の先生」「宇宙飛行士」等色々な職業の答えが返ってきますが、男性の場合、「パイロット」「バスの運転手」「電車の運転手」等交通機関に関する職業が多く、一方、女性の場合は、「ケーキ屋さん」「パン屋さん」等食べ物に関する職業が圧倒的に多いように見受けられます。このように、子供の時代はそれぞれ夢がありますが、成長とともに、次々と変化していきます。しかしながら、男性の場合、心のどこかに、子供の時の夢が残っているのか、成長して大人になっても、まだその夢を追っかけている場合があるようです。
先日、自動車学校に出勤するため、JRの電車に乗っていたときのことです。私は先頭車両の後部座席に乗り、いつものように小説を読んでいたところ、車両の前の方から「わあ、素晴らしい眺めだ」という男の声が聞こえてきたのです。私が何事かなと思い、小説を読むのをやめ、顔を上げて声のする方を見ると、背広を着た二人の男性が、運転席の直ぐ後ろに立ち、前方を見ている姿が見えました。その男性達は、私と同じJR宮崎駅から乗車した三人連れの内の二人ですが、二人とも40歳代の前半と見受けられ、宮崎駅のホームで待っている時の話の様子からすると、仕事で鹿児島市に向かうサラリーマン、それも残暑の時期に背広を着ており、しかも着こなしの状態から察すると、大手会社に勤務していると思われる人達でした。
その電車に乗車している人は少なく、殆どの客は座席に座っていましたので、二人の様子は私の席からも良く見えましたから、しばらく観察することにしたのです。二人とも先頭電車の一番前、運転手の斜め後ろの場所に立ち前方を見ていましたが、二人は前方に見える風景を眺めたり、運転手が信号を見て「指差点呼」をするとそれを真似、同じように「指差点呼」をするのです。その光景はまるで子供みたいでしたが、私はそこに「男のロマン」を垣間見た思いがしたのです。
そこで、私はその日、自動車学校からの帰り、山之口駅から電車に乗ると、二人がしたように席には座らず、運転席の横に立つことにしたのです。運転席の直ぐ横に立ったことは初めてでしたが、私の前方にあるのは大きなガラスで、そこには何も遮る物はありませんから、まるで運転手になったような錯覚を覚えたのです。
先ず最初に感じたのは、意外にも線路が真っ直ぐなことでした。もちろん、カーブしている所もありますが、私が感じている以上に線路はずっと真っ直ぐなのです。それに何といっても感動したのは、トンネルの中を通過するときです。途中、青井岳トンネルは、全長が約1,5キロ位あるトンネルですが、このトンネルに入ったときは、真っ暗で前方の様子は、電車が照らす線路しか見えません。それがしばらくすると、前方にかすかに点みたいなものが見え、それが段々大きくなり、やがてトンネルの出口になるのです。そのほか、次から次に線路の周りの光景が目の中に飛び込んできますので、全く退屈することがなく、とうとう、終点の宮崎駅までずっと立ったままという有様でした。
このような私の行動は、他の乗客から見れば、「席に座らず、何をしているのか」と思われたかもしれませんが、私にとってはまるで子供の時にタイムスリップしたみたいで、久方ぶりに胸がワクワクしました。これがおそらく「男のロマン」でしょう。鉄道関係者の話によると、私のような行動をとるのは、鉄道マニアだそうですが、どうやら私も病み付きになったようです。






