ネクタイ
4月になった途端、連日のように、テレビの画面には入社式や入学式の模様が映し出されていますが、MDSでも今年5名の新入社員がありました。5名のうち4名は女性事務員、1名は指導員見習いの男性ですが、その人達と毎日接していると、行動は何かギコチありませんが、初々しさを感じ、私達までエネルギーを得たような気がします。おそらく、職員の人達も、自分が入社したときの姿と、新入社員の姿をダブらせて見ていられるものと思います。
さて、4月の初めの朝、出勤する際、JR宮崎駅の駐輪場に自転車を止め、歩いて駅庁舎に入ろうとして、ふと駅前の駐車場を見ると、1台の普通乗用車の周りに3名の男女がいるのに気づきました。3名のうち2名は50年配の男女、もう1名は若い男性であり、話し声は聞こえませんでしたが、雰囲気からどうやら親子連れのようでした。何をしているのかなと思いましたので、足を止めて3名の様子を見ていますと、若い男性は黒っぽいスーツを身に着けていますが、ネクタイはまだつけていません。その傍に立っている母親らしき女性はピンク系のネクタイを手に持っていましたが、やがて父親らしき男性が、女性からネクタイを受け取ると、若い男性のYシャツに取り付けています。車のナンバーを見ますと、大分ナンバーになっていますから、どうやらその親子連れは、入社式に出席するため、服装を整えているところだとわかったのです。息子らしき若者は、ただ突っ立ったままであり、父親らしき男性が、かいがいしくネクタイを締めなおしている姿をみて、何かほのぼのした感じを受けたところです。
その親子連れを見て、私はふと、約50年前の自分の姿を思い出しました。就職するため、我が家を出発する前夜でしたが、父が「ネクタイの結び方を教えてやる。」と言い出したのです。我が家は、ミカンとお茶を栽培する農家でしたから、父のネクタイ姿は滅多に見たことはなく、時たま見ても、ネクタイの結び目が大きく、しかも、少し斜めに曲がっており、とても上手だとは思っていませんでした。また、日頃から父とひざを突き合わせて話す機会は余りありませんでしたから、父の突然の申し出に対し、一寸戸惑ったのですが、18年間育った我が家を巣立つわけですから、父への思い出としてネクタイの結び方を習うことにしたのです。
父のすぐ横に正座して座り、父がするようにまずネクタイを首に巻き、それから結び目をつけるわけですが、何しろ、それまでは一度もネクタイを身につけたことがありませんでしたから、なかなか思うようには結べないのです。指導する父のネクタイ姿も、結び目が私の目から見ても大きく、あまり様にはなっていなかったような記憶がありますから、うまく結べなかったのは当然だったものと思います。それでも約1時間の練習で、どうやらネクタイの結び方は、一応マスターすることが出来たわけです。それ以上に、我が家を巣立つ前に、親しく話す機会がなかった父と、話しながらネクタイ結びの練習をしたことが私の良き思い出となっています。
その父は、25年前、70歳の若さで亡くなりましたが、今でもネクタイを結ぶたびに、そのときの父のしぐさを思い出し、懐かしく思うときがあります。






