似顔絵
先日、本棚の整理をしていると、中学校時代の卒業アルバムが目にとまり、久方ぶりだったので、ページをめくっていたところ、懐かしい恩師の写真があり、その写真を見ているうち、I先生の姿が目に入りました。その瞬間、50数年前の出来事が、タイムスリップして私の脳裏によみがえって来たのです。それは、I先生の授業を受けているとき、先生の「似顔絵」を描き、それが先生に見つかってしまい、大目玉を食ったことがあるからです。
その出来事があったのは、私が中学3年生の1学期のことでした。I先生の担当科目は、「職業・家庭科」の中の「職業」でしたが、この授業科目は、昭和22年に新制中学校制度が発足した時に新しく出来た授業科目で、その授業内容は、実社会に役立つ仕事を教えるもので、私が育った地区は、農業従事者がほとんどでしたから、農業に関するものが主だったと記憶しています。この授業は、週に3~4時間あり、この時間になると、男の生徒は2クラス合同で「職業科」、女の生徒は「家庭科」の授業を受けることになっていました。
その日は朝から雨が降っており、私は授業を受けながら、ぼんやりと窓の外の景色を眺めているうち、ふっと、「I先生の似顔絵を描いてみよう」という気持ちになったのです。私は絵は不得意な方でしたが、I先生の顔が余りにも特徴があったからです。それは、I先生の風貌が、目がクリクリしていて、まるでタヌキのようであり、また、鼻の下には、チャップリンがしているようなチョビ髭があったからです。そう思ったら、矢も楯もたまらず「似顔絵」を描く気持ちになり、ノートのきれはしに、先生の「似顔」を描き始めたのです。さも、熱心に授業を受けている振りをしながら、先生の顔をじっと観察し、約5分位でI先生の「似顔絵」が出来上がりました。
その「似顔絵」は我ながら良く出来上がっていたので、つい友達に自慢したくなり、絵が描かれたノートを破り、それを前席に座っていたM君に手渡したのです。すると、M君はクスクス笑いながら、その「似顔絵」を隣りに座っていたS君に見せたのです。その様子が後ろの席にいた私にもわかり、「これはまずい」と思い、小声で「人に見せるな。すぐ返せ。」と言いましたが、時すでに遅く、その様子が授業をしていたI先生に見つかってしまったのです。
I先生は、私の傑作である「似顔絵」を見つけるなり、「貴様」というや否や私の襟首をつかんで黒板の前まで引きずり出し、そこで、1回拳骨で私の頭を殴られたのです。その瞬間、私は頭に「グアーン」というショックを受けましたが、私が悪いことをしたわけですから、そのままじっと耐えていたのです。すると、再び私の襟首をつかみ、校長室に引きずって行き、校長に「似顔絵」のことを報告されたのです。私はてっきり、校長から怒られると思っていたところ、何と、校長は「うまい似顔絵だね。しかし、授業中は、真面目に勉強しなさいよ」という信じられない言葉があり、この件は一件落着となったという次第です。
I先生もその場でこの件は水に流され、その後は私に言葉をかけていただきましたので、私としては大変恐縮し、かつ猛反省しているところです。今は亡きI先生ですが、この文面を借り、改めてお詫びを申し上げます。



